美容医療のリスクマネジメントについて
法的視点から見た美容医療について
■美容医療の事故に起因する損害賠償とは

損害賠償とは、他人の行為によって損害が発生した場合、その損害を補填させることによって損害が生じる直前の状態に戻すことをいいます。

損害を発生させた加害者には、被害者が受けた損害を賠償しなければならない「民事責任」が問われます。

また、違法行為の内容によっては「刑事責任」を問われる場合もあります。

さらに、ことによっては「行政処分」を受けることになるかもしれません。

「民事責任」には、不法行為責任と債務不履行責任があります。

①不法行為責任

民法第709条は、故意または過失によって、他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、被害者に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う、と定めています。

例えば、施術の際に機械装置の操作を誤って患者にやけどを負わせてしまった場合や、禁忌であるにもかかわらず投薬して予想外の皮膚障害が患者に発生したなどというのが典型的な場合で、不法行為として賠償責任の対象となります。

②債務不履行責任

民法第415条は、債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができ、債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも同様とする、と定めています。

当協会に報告された事故クレームの例は下記のようなものがあります。

  • ・レーザー照射時、誤ったハンドピースを付け操作し、高出力となり火傷を負った。
  • ・脱毛レーザー施術時に誤ってタトゥーに照射してしまい、炎症を起こした。

■美容医療の不法行為とは

では美容医療の不法行為とはどのようなものでしょうか。

美容医療も医療行為ですので請負契約でなく準委任契約であり、患者に結果の達成を約束できるような行為ではありません。

ですから「患者と約束した効果をもたらしていない」ことがイコール「不法行為」であるということではありません。

ただし、美容医療の特殊性として緊急性や医学的な必要性に乏しい医療行為であり、多くは患者の主観的願望を満足させる医療である、ということがポイントとなります。

そのため施術前の説明責任が一般医療よりも重要視され、裁判では「説明義務違反」が追及されることが多くあります。

美容医療の「説明義務違反」について法的な視点からは

    「美容整形医療については・・・患者に対し、施術に関して重要な情報を与え、施術を受けるかどうかの判断をできるようにするべく、事案に応じて相応な時間をかけ、了解可能かつ十分な説明を尽くすことが求められるというべきである。」(上田元和「美容整形医療をめぐる諸問題」(最新裁判実務大系2 医療訴訟)578頁)とする見解や、「医師が説明すべき事項は、一般的には、 ①疾患についての診断、②実施予定手術の内容、③手術に付随する危険性の三項目であるが、緊急性の低い場合には、右のほかに、④患者の現症状と原因、⑤実施予定手術の効果、⑥手術をしない場合の予後内容、⑦危険が発生した場合の対処方法などについても説明すべきであると解されている」(判例タイムズ877頁261頁)

といった見解があります。

東京地裁平成17年11月24日の判示においては

    「一般に、美容整形外科手術は、疾病や外傷に対する治療のための手術に比べて、その医療上の必要性や緊急性が乏しい上、患者の主観的評価に左右されるような美容効果の達成を目的とするため、整形後の結果に目を奪われがちとなるから、手術を担当する医師は、患者に対して、手術の欠点や危険性についても十分に説明すべき義務を負っているというべきであり、とりわけ患者に誤解や過度の期待がある場合には、それを解消させる必要があるし、手術によっても患者の目的を達成できないおそれがある場合には、そのことを明確に説明して、それでもなお患者がその手術を受ける意思を維持するかどうかを慎重に確認しなければならない」

とされています。

口頭やICで約束的な表現をしたことが効果を約束したと認められ、その通りの結果が得られなかった場合、損害賠償を請求されることもありますので十分なご説明をお願いいたします。