美容医療ニュース
美容医療の“後遺症” リスクの説明や対応が不十分なケースも

美容医療による健康被害などのトラブルが増加する中、NHKが合併症や後遺症が生じた患者にアンケート調査を実施した結果、施術を受けた医療機関から事前にリスクの説明がなかったという人や、治療を断られたという人が見られました。

美容医療は、幅広い世代でニーズが高まっている一方、一部のクリニックで施術を受けた人が合併症や後遺症に悩むケースも起きています。

全国の消費生活センターなどに寄せられた美容医療によるけがや病気などの健康被害のトラブル相談は、2023年度に901件と、4年間で2倍近くに増えています。

こうした中、NHKは3月、美容医療の後遺症を治療する医療機関や、日本美容外科学会=JSAPSに所属する医師などを通じて、合併症や後遺症を経験した患者にアンケート調査を行い、27人から回答を得ました。

このうち、施術を受ける前に後遺症などのリスクについて説明を受けたか聞いたところ、21人が「受けていない」と回答し、詳しいリスクを知らないまま施術を受けた人がいることが分かりました。

また、15人は施術を受けた医療機関に治療の相談をしたが断られたとしています。

この中には「『これ以上は何もできない』と追い返された」という人や、「クレーマー扱いされた」という人もいて、一部の医療機関で、合併症や後遺症への対応が十分に取られていない実情も見られました。

また施術を受けた所とは別の医療機関に相談したものの、治療を断られた経験があるという人は15人いました。

アンケートの結果について日本美容外科学会=JSAPSの原岡剛一理事は、「美容医療の業界全体で後遺症などに速やかに対応する体制を進めていく必要がある。美容クリニックなどは、後遺症を訴える患者が出たら責任を持って診療にあたり、高度な治療が必要な場合は、大学病院に紹介状を書くなど迅速に対応すべきだ」と指摘しています。

■後遺症外来では患者急増 5年前と比べ6倍ほどに

美容医療による後遺症などを治療する大学病院では、ここ数年、患者が急増し、担当する医師は「後遺症患者の治療にあたる医療機関をさらに拡大する必要がある」と訴えています。

東京 文京区の日本医科大学付属病院は、美容医療の合併症や後遺症に悩む患者を専門的に受け入れる外来を設置しています。

毎週木曜日に診療が行われ、多い時には1日30人ほどの患者が訪れています。5年前と比べると6倍ほどに増えているといいます。

東京だけでなく、全国各地から幅広い年齢層の人が治療を受けにやってきます。

大阪から訪れた30代の女性は、美容医療をたびたび受け、自信が持てるようになったといいますが、去年、結婚式を前に受けた、あごの下のたるみを引き締める施術で腫れが起き、でこぼこした膨らみが残りました。

女性は外来を受診し膨らみを抑える治療を受けました。

美容後遺症外来の朝日林太郎医師によりますと、最近は、目の下のくまを取るはずだった施術で、傷あとが残るなど医師の技術ミスによるものと見られる事例が、少なくないといいます。

朝日医師は、業界が急拡大する中、経験が浅く技術が不足する医師が出てきているのではないかとした上で、「しっかりと安全対策を行っているクリニックを選ぶことが重要だ。また、後遺症の患者を治療する医師や医療機関は全く足りていない状態で、体制の拡大が急務だ」と話しています。

後遺症に悩む患者「十分な説明 受けていなかった」

美容医療の後遺症に悩む患者の中には、施術を受ける前に後遺症などのリスクについて、クリニックから十分な説明を受けていなかったと話す人もいます。

都内に住む40代の会社員の女性は、出産した後、職場に復帰する際に、鏡で自分の顔をみてしわが多くなったと感じ、去年、美容クリニックでしわを目立たなくするヒアルロン酸注射を受けました。

その際、クリニックの医師からは、副作用や後遺症などの口頭でのリスクの説明はなかったといいます。

しかし施術の後、ほおやまぶたがたびたび腫れるようになってしまいました。

女性はその後、後遺症外来で治療を受け症状は改善しましたが、現在も薬の服用を続けています。

女性は「クリニックには事前のカウンセリングなどの場で、リスクを詳しく説明してもらいたかったし、私も、もっと考えるべきだったと反省している。国や自治体は美容医療のリスクについてさらに注意喚起をしてもらいたい」と話しています。

■後遺症の治療 医療機関が見つからないケースも

また、美容医療による後遺症が出た患者の中には、治療を受けられる医療機関がなかなか見つからなかったと話す人もいます。

NHKが患者に行ったアンケート調査の自由記述には、クリニックから、「機能障害が出ない限り失敗とは言えず、再手術するなら別途料金が必要だ」と言われたり、「執刀医が退職しているため、受け付けられない」などと断られたりしたというケースが見られました。

アンケートに回答した九州に住む30代の男性は、目の病気の手術をした影響でまぶたの形が崩れ、ことし、美容クリニックで形を整える施術を受けました。しかし、まぶたが引きつって痛みを感じるようになり、見た目も悪化し、外出がしづらくなったといいます。

男性は施術を受けた医師に相談しましたが、「原因が分からないので治療できない」などと言われたといいます。施術代は全額返金されましたが、後遺症を治療できる医療機関は紹介してくれなかったといいます。

男性はその後、治療先を探すため東京など10件の医療機関を回りましたが、対応してくれる所は見つかりませんでした。

紹介状が無かったり、クリニックが作成したカルテに詳しい施術内容が書かれていなかったりして、「後遺症の原因がわからず治療ができない」と言われることが多かったということです。

男性はことし1月に日本医科大学付属病院の後遺症外来を受診しましたが、回復のめどはまだ立っていません。

男性は「クリニックの医師は施術前は親身になって話を聞いてくれたのに、痛みが出たと相談したら、十分に対応してもらえず態度が一変したと感じた。アフターケアも含めての手術だと思っていたので、そこが無いのは無責任だと感じる」と話しています。

■厚労省や学会 対策強化へ

美容医療に関する健康被害の相談が相次ぐ中、厚生労働省は、安全を確保するための対策を強化することにしています。

具体的には、美容医療を行うクリニックなどに対し、年に一度、安全管理を適切に行っているかどうか、都道府県などの自治体に報告するよう義務づける方針です。

また厚生労働省が去年、美容医療を手がけるクリニックなどに行った調査では、後遺症などのトラブルに対応するマニュアルや研修を準備していない所は、33.8%に上っています。

こうした中、美容医療に関係する学会などは、後遺症などのリスクを事前に説明する方法や、アフターケアの体制をどのように整えるかなどをまとめた「ガイドライン」を、今後、策定することにしています。

専門家「リスクや対応 クリニックの医師に詳しく聞いて」

日本美容外科学会=JSAPSの原岡剛一理事は、後遺症などのトラブルが相次いでいることについて、「美容クリニックの中でも安全対策に力を入れるところはあるが、対応が十分と言えるクリニックは決して多くは無い。まずは自分たちで診療や治療にあたり、大学病院などで高度な治療が必要になった場合は、紹介状を書くなど責任を持って対応すべきだ」と指摘しています。

その上で、美容医療の利用を考えている人に対しては、「どんなリスクが考えられるかや、万が一、合併症や後遺症が起きた時に、どんな対応を取ってもらえるのかを、クリニックの医師に詳しく聞いてほしい。そこで納得が得られなければ、利用を控えることも大切だ」と話しています。

(NHK WEBより転載 2025年3月26日 22時31分)