幅広い年代で美容医療のニーズが高まる一方、健康被害などのトラブルも増えている。施術の結果に納得できなかったり、合併症や後遺症に悩んだり。美容医療にも詳しい皮膚科医は「リスクや副作用についても知り、施術を受けるか慎重に判断してほしい」と注意を呼びかける。(斉藤和音)
名古屋市の40代の女性会社員は4月、目の下の脂肪を除去してくまを取る施術を受けた。交流サイト(SNS)で症例を紹介する動画を見たのがきっかけだ。投稿者は全国展開する大手美容外科クリニック。目の下の膨らみが悩みだった女性は軽い気持ちで市内のクリニックを訪れた。
医師ではないカウンセラーの女性が施術の希望を聞き取った。「今日なら安くできる」と15万円が10万円に。医師と顔を合わせることなく契約書に署名し、施術を受けた。
再来院した5月、鼻の悩みをカウンセラーに漏らした。ある注射で鼻の広がりが解消できるとしていたが「あなたには効果がない」と15万円の別の施術を勧められた。迷ったが決断。施術内容やリスクは知らされなかった。
術後まもなく異変が。鼻先が赤く腫れ、黒い物が飛び出てタオルで触れられないほど痛む。クリニック側は「様子見で問題ない」と対応を拒んだ。別の医療機関で、黒い物は糸で、感染の恐れから早急な除去を勧められた。目元も脂肪の取り残しがあり、明らかな左右差を指摘された。
クリニック側はその後も「お金さえ返せば満足するのか」と診察を拒否し、女性は精神的にも追い詰められた。糸は他院で除去したが、鼻の傷痕や皮膚の違和感、目元の左右差は残る。鼻の広がりは改善しなかった。女性は「カウンセリングでコンプレックスを次々と指摘され、不安をあおられた。もっと情報収集すべきだった」と悔やむ。
厚生労働省は関係学会の調査を分析。52の医療機関・チェーンの施術数は2019年に123万件だったが、22年には約3倍の373万件に増えている。国民生活センターなどへの相談も急増。24年度は1万700件あり、過去10年で最多を更新した。このうち、健康被害の訴えは898件に上る。しみ取りのレーザーで顔中をやけどした(57歳女性)、しわやたるみを解消する施術で顔のしびれや舌の違和感が残る(50代女性)という被害もあった。
厚労省は昨年の検討会で美容クリニックなどに勤める医師の専門医資格の有無や安全管理の状況を年1回報告させることなどを決めた。
「関連する皮膚科や形成外科といった診療の経験が少ない医師の参入が増えている」。日本皮膚科学会理事で、愛知医科大の渡辺大輔教授は、トラブル多発の背景を指摘する。大学卒業後の初期研修を終え、すぐに美容医療に進む「直美(ちょくび)」と呼ばれる医師も増加している。「SNSをうのみにせず、冷静に施術内容や医師の経歴などを調べて」。日本美容医療協会のホームページでは、情報や寄せられた相談内容を公開している。
(東京新聞より一部転載 2025年6月26日 07時43分)