美しくなりたいという願いは、決して否定されるべきものではありません。しかし、美容医療市場の拡大とともに、初期臨床研修を終えたばかりの若い医師が、十分な専門的トレーニングを経ずに美容医療の現場に立つケースが増加しているという現状があります。近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授の大塚篤司医師は、「安全で質の高い美容医療を受けるためには、患者さん自身が医師の経歴や資格をしっかりと確認することが重要になります」と話します。大塚医師の著書『大学病院の美容皮膚科医が教える 最新医学でわかったシミ・シワの「消し方」』(朝日新聞出版)の「美容医療の医師選び:直美問題と専門医の見極め方」から抜粋してお届けします。
近年、美容医療の分野で「直美(ちょくび)」という言葉を耳にする機会が増えています。これは、大学での医学部教育と2年間の初期臨床研修を終えたばかりの医師が、皮膚科や形成外科といった一般の保険診療科でさらなる研鑽(けんさん)を積むことなく、直接、自由診療が中心の美容外科や美容皮膚科クリニックに就職するケースを指す俗称です。
かつて美容医療の道に進む医師は、形成外科や一般外科、あるいは皮膚科などで数年間しっかりとしたトレーニングを受け、手術手技や皮膚疾患に関する深い知識と経験を身につけた後、美容分野に転身するのが一般的でした。
これらの診療科で培われる診断能力や合併症への対応力は、安全な美容医療を提供する上で極めて重要な基盤となります。
しかし、美容医療市場の拡大とともに、初期臨床研修を終えたばかりの若い医師が、十分な専門的トレーニングを経ずに美容医療の現場に立つケースが増加しているという現状があります。もちろん、すべての「直美」医師の技量が低いわけではありませんが、経験豊富な医師に比べて、診断の精度や手技の熟練度、予期せぬトラブルへの対応能力に差がある可能性は否定できません。
特に、レーザー治療や注入療法などは、手軽に見えても一歩間違えれば火傷(やけど)や神経損傷、血管塞栓(そくせん)といった深刻な合併症を引き起こすリスクがあります。また、シミだと思っていたものが実は皮膚がんだった、というケースも見逃してはなりません。こうしたリスクを回避し、安全で質の高い美容医療を受けるためには、患者さん自身が医師の経歴や資格をしっかりと確認することが重要になります。
では、経験のある信頼できる医師を見分けるには、最低限どのような点に注意すれば良いでしょうか?
1.専門医資格の有無を確認する
美容皮膚科領域であれば「日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医」、美容外科領域であれば「日本形成外科学会認定 形成外科専門医」の資格を持っているかを確認しましょう。これらの専門医資格は、定められた研修プログラムを修了し、厳しい試験に合格した医師にのみ与えられるものであり、その分野における高い知識と技術を持っていることの証となります(もちろん、これ以外の診療科出身で美容医療に長けた医師もいますが、一つの客観的な指標となります)。
2.経歴と研修期間を具体的に確認する
クリニックのウェブサイトや医師紹介ページで、経歴を確認しましょう。その際、「〇〇美容クリニック 研修修了」といった曖昧(あいまい)な記載だけでなく、「〇〇病院 形成外科にて△年間勤務」のように、どの診療科でどれくらいの期間、臨床経験を積んできたかが具体的に記載されているかを確認することが重要です。
残念ながら、中には数週間から1、2ヶ月の短期間の研修を受けただけで、あたかも十分な経験があるかのように経歴に記載しているケースも見受けられます。研修期間が具体的に、かつ正直に記載されているかどうかも、信頼性を見極めるポイントの一つです。
3.リスクや副作用の説明を正直に行うかを確認する
カウンセリングでは、治療の良い点だけでなく、起こりうるリスク、副作用、合併症、ダウンタイムについて、隠さずに具体的に説明してくれるかを必ず確認してください。質問に対して真摯(しんし)に答え、たとえ不利な情報であっても正直に伝える姿勢があるかどうかは、医師の誠実さを見極める上で非常に重要です。メリットばかりを強調し、リスク説明を軽視したり、曖昧にしたりする医師や、不安を煽(あお)って高額な治療を強く勧めてくるような場合は、一度立ち止まって考えるべきです。信頼できる医師は、患者さんがすべての情報を理解し、納得した上で治療を選択できるよう努めるはずです。
美容医療は、医師の知識、技術、そして経験によって結果が大きく左右されます。広告や価格だけで安易にクリニックを選ぶのではなく、担当する医師がどのようなバックグラウンドを持ち、どのような姿勢で診療に当たっているのかをしっかりと確認し、納得した上で治療を受けるようにしましょう。
(2025年11月08日 AERA DIGITALより転載)