美容医療ニュース
全世代で過熱する「見た目」投資 5兆円迫る美容ビジネスの光と影

1.若年層では美容は「当たり前の出費」になった
2.市場規模は5兆円に迫る勢い
3.美容医療を巡る契約トラブルや健康被害への懸念も

 「実は40万円かけて全身脱毛をしているんです」。社内の飲み会でそう語ったのは、20代の男性社員だった──。

かつては、一部の女性の関心事とされていた美容は、今や若年層を中心に、「整えること」を前提とした生活インフラへと変貌しつつある。化粧品から医療、テクノロジーまで、美容を巡る経済圏が社会を包み始めた。

一方で、自由診療の拡大とともに健康被害が表面化するなど、負の側面も浮かび上がる。本連載では、5兆円に迫る「美容経済」の構造と、その光と影を多角的に描く。初回は、美容が“インフラ化”していった背景を解き明かす。

■月間支出は女性が5826円、男性が3340円

若年層の間で、美容はもはや特別な出費ではなくなった。学生時代に脱毛に約30万円をかけたという20代女性会社員は、「高いとは思ったけれど、周囲もしていたので、やっていないことに不安を感じた」と話す。

実際、調査会社TesTee(テスティー、東京・渋谷)による2023年の調査では、女子大生の51.5%が「脱毛経験がある」と回答している。また、リクルートが24年に全国1万3200人を対象に行った調査によると、美容に使う1カ月当たりの金額は女性が5826円、男性が3340円と、過去4年で最高額に達した。

しわ取り薬「ボトックス」やヒアルロン酸注射、医療アートメークといった美容医療も例外ではない。かつては一部の富裕層や美容マニアに限られていたこれらの施術が、今や整えるためのメンテナンスとして日常に溶け込みつつある。髪が伸びたら散髪するように、「気になったら美容施術を受ける」という感覚が、幅広い層に浸透し始めているのだ。

では、なぜこれほど「整える支出」が当たり前になったのか。最大の要因として考えられるのはSNSの普及だ。

インスタグラムやTikTok(ティックトック)の台頭により、写真や動画で自分の姿を世の中に発信することが日常の一部となった。加えて、SNSユーザーが日々目にするのは、磨き抜かれた容姿を持つ芸能人やインフルエンサーの姿だ。彼らのコンテンツが流れてくることで無意識のうちに自分の容姿と比較し、「もっと整えなければ」というプレッシャーを感じる人も少なくない。

さらに、新型コロナウイルスの流行も、人々の「見た目への意識」に拍車をかけた。長引くマスク生活で顔の一部が隠れたことで、目元などのパーツへの関心が高まり、マスクを外す場面での“見られること”への緊張感も強まった。また、在宅勤務やリモート会議の定着により、画面越しに自分の顔を常に見る機会が増え、自身の容姿を見つめ直す習慣が生まれた。

■資生堂、企業トップなどを対象にセルフプロデュースを支援

もっとも、この見た目への意識の高まりは、若年層だけにとどまらない。近年では、経営者や上級管理職といった意思決定層の間でも、美容や身だしなみへの関心が静かに高まっている。第一線で人前に立ち、評価される立場にあるからこそ、見た目も自己管理能力や信頼感の一部と捉えられ始めているのだ。

(2025年12月22日 日経ビジネスより転載)