「美容医療」市場は3年間で1.5倍に拡大 “経営力”と“施術力”で差別化が鮮明に

~2024年「美容クリニック」の動向調査 ~

 全国の主な美容クリニック248法人の2024年の売上高は3,137億5,900万円(前期比29.9%増)、利益は82億6,500万円(同22.6%増)と好調だった。コロナ禍を経ても市場は拡大をたどり、美容医療が社会に定着してきたようだ。ただ、2024年は大手の倒産が相次ぎ、前期に比べて減収や赤字法人の比率も高まっている。性別を問わず需要が広がるなか、市場は踊り場に差し掛かった可能性も出てきた。

全国の医療法人のうち、事業内容に「美容整形」「美容クリニック」を含む248法人の売上高は、2022年の2,119億6,700万円から2024年は3,137億5,900万円へ約1.5倍に伸びた。マスク生活が長かったコロナ禍を経て、美容への自己投資がより身近なものとなり、SNSマーケティングなども業界の追い風となっている。

利益は、2021年の61億3,600万円から2024年は82億6,500万円に増えている。市場自体が成長過程で、売上高5億円未満の中小・零細法人が73.7%を占め、施術単価や稼働率の低下が収益に直結するだけに経営戦略が重要になっている。

なお、2024年の美容クリニックの「休廃業・解散」は3件、倒産は4件で合計7件を数えた。これは過去10年で最多で、今後も需要が見込まれる市場とはいえ、重い投資負担や運営方針が不明確な事業者は淘汰される可能性が高い。

広告経費と集客バランスが不均衡なクリニックや特定施術に特化した単一型クリニックは、流行に左右され、多様さを増す顧客ニーズに対応できないリスクも高い。「休廃業・解散」や倒産の増加は、こうしたクリニックの淘汰を示すもので、業界の健全化に向けた警鐘とも見ることができる。今後は早期の経営診断と資金繰り対策の一方で、オンライン診療、化粧品販売など幅を広げた経営が必要な局面に入っていくだろう。

※ 本調査は、東京商工リサーチの企業データベース(約440万社)から、事業内容に「美容整形」、「美容クリニック」を含む 法人を抽出。2024年の業績(2024年1月~2024年12月期)を最新期とし、3期連続で業績が判明した248社を分析した。

(東京商工リサーチより転載 2025年6月26日 12時55分)

美容医療のトラブル急増 結果に不満、合併症や後遺症 経験少ない「直美」医師も増加

幅広い年代で美容医療のニーズが高まる一方、健康被害などのトラブルも増えている。施術の結果に納得できなかったり、合併症や後遺症に悩んだり。美容医療にも詳しい皮膚科医は「リスクや副作用についても知り、施術を受けるか慎重に判断してほしい」と注意を呼びかける。(斉藤和音)

名古屋市の40代の女性会社員は4月、目の下の脂肪を除去してくまを取る施術を受けた。交流サイト(SNS)で症例を紹介する動画を見たのがきっかけだ。投稿者は全国展開する大手美容外科クリニック。目の下の膨らみが悩みだった女性は軽い気持ちで市内のクリニックを訪れた。

医師ではないカウンセラーの女性が施術の希望を聞き取った。「今日なら安くできる」と15万円が10万円に。医師と顔を合わせることなく契約書に署名し、施術を受けた。

 再来院した5月、鼻の悩みをカウンセラーに漏らした。ある注射で鼻の広がりが解消できるとしていたが「あなたには効果がない」と15万円の別の施術を勧められた。迷ったが決断。施術内容やリスクは知らされなかった。

 術後まもなく異変が。鼻先が赤く腫れ、黒い物が飛び出てタオルで触れられないほど痛む。クリニック側は「様子見で問題ない」と対応を拒んだ。別の医療機関で、黒い物は糸で、感染の恐れから早急な除去を勧められた。目元も脂肪の取り残しがあり、明らかな左右差を指摘された。

 クリニック側はその後も「お金さえ返せば満足するのか」と診察を拒否し、女性は精神的にも追い詰められた。糸は他院で除去したが、鼻の傷痕や皮膚の違和感、目元の左右差は残る。鼻の広がりは改善しなかった。女性は「カウンセリングでコンプレックスを次々と指摘され、不安をあおられた。もっと情報収集すべきだった」と悔やむ。

 厚生労働省は関係学会の調査を分析。52の医療機関・チェーンの施術数は2019年に123万件だったが、22年には約3倍の373万件に増えている。国民生活センターなどへの相談も急増。24年度は1万700件あり、過去10年で最多を更新した。このうち、健康被害の訴えは898件に上る。しみ取りのレーザーで顔中をやけどした(57歳女性)、しわやたるみを解消する施術で顔のしびれや舌の違和感が残る(50代女性)という被害もあった。

 厚労省は昨年の検討会で美容クリニックなどに勤める医師の専門医資格の有無や安全管理の状況を年1回報告させることなどを決めた。

 「関連する皮膚科や形成外科といった診療の経験が少ない医師の参入が増えている」。日本皮膚科学会理事で、愛知医科大の渡辺大輔教授は、トラブル多発の背景を指摘する。大学卒業後の初期研修を終え、すぐに美容医療に進む「直美(ちょくび)」と呼ばれる医師も増加している。「SNSをうのみにせず、冷静に施術内容や医師の経歴などを調べて」。日本美容医療協会のホームページでは、情報や寄せられた相談内容を公開している。

(東京新聞より一部転載 2025年6月26日 07時43分)

“美容施術 HIFUでやけど” 会社が謝罪し解決金で和解成立

「HIFU(ハイフ)」と呼ばれる技術を使った美容の施術でやけどを負ったとして、20代の女性がエステサロンを経営する会社に賠償を求めた裁判で、会社が謝罪して解決金を支払うことを条件に17日、和解が成立しました。

都内の20代の女性は、エステ店で医師免許を持たない人から「HIFU」の施術を受け、左足にやけどを負ったとして、経営する会社に慰謝料など400万円余りを求める訴えを去年、起こしました。

女性側によりますと、17日、東京地方裁判所で協議が行われ、会社が施術でミスがあったことを認めて謝罪することや、解決金を支払うことなどで和解が成立したということです。

「HIFU」は専用の機械で身体に超音波をあてて加熱する技術で、しわの改善などの効果がある一方、やけどや急性白内障などになったという相談も相次ぎ、厚生労働省は去年6月、都道府県に対し、施術には医師免許が必要だとする通知を出していました。

女性の弁護士によりますと、和解条項の中で裁判所は、医師以外による「HIFU」は医師法違反で、民事上の慰謝料の対象になるという見解を示したということです。

女性は都内で開かれた会見で、「やけどの痕が現在も残っているので、完全に気持ちが晴れたとはいえないが、今後、同じような被害が繰り返されないことを願います」と話していました。

(NHK NEWS WEBより転載 2025年6月17日 14時57分)

美容医療トラブルに特化した救急外来が本格開始 東京 新宿

二重手術や脂肪吸引など美容医療のニーズが高まる一方で、一部では、合併症や後遺症などの健康被害も起きています。そうした中、東京・新宿区の病院が6月から、美容医療のトラブルに特化した救急外来を本格的に開始しました。

美容医療をめぐっては全国の消費生活センターなどに寄せられた健康被害の相談が、昨年度822件と、5年前の1.7倍に増加しています。

こうした中、東京 新宿区で24時間、救急患者を受け入れている春山記念病院は、患者を迅速に治療するため、6月から、美容医療のトラブルに特化した救急外来を本格的に開始しました。

病院はこれまでも、美容医療による合併症などの緊急手術を行ってきましたが、どんな施術を受けたのか分からず、処置に苦慮するケースも少なくなかったといいます。

このため6月には、都内の美容クリニックと覚書を交わし、クリニックで施術を受けた患者を病院が受け入れる場合は、施術内容など、治療に必要な情報を共有していくことになりました。

治療は公的な医療保険が適用されない自由診療で行われます。

美容医療の健康被害をめぐっては、厚生労働省の検討会も去年、美容クリニックと、合併症などに対応できる医療機関の連携を深める必要性を指摘しています。

覚書を交わした美容クリニックの深堀純也理事長は「これまで施術後の死亡事故や重篤な後遺症は起きていないが、今後、予期せぬ合併症が起こる可能性もあり、安心して美容医療を提供するうえで、救急病院と連携できるのは心強くありがたい」と話していました。

病院の事業責任者の櫻井裕基 医師は「一刻一秒を争う事例があるため協定を事前に結ぶ取り組みを始めた。今後はほかのクリニックとの連携も広げていきたい」と話していました。

合併症や後遺症で緊急手術も 連携の必要性は

美容クリニックで施術を受けた後、合併症や後遺症を患い、緊急手術が必要になる患者は後を絶ちません。

東京 新宿区の春山記念病院では、5月にも都内の美容クリニックであご下の脂肪吸引を受けた40代の男性患者が救急搬送されてきました。

男性は施術後に、首に血腫が出来て気道が圧迫されていました。

救急搬送にはクリニックの医師が同行し、病院側に施術内容を速やかに伝えたため、血腫の原因が首の血管からの出血であることが分かり、すぐに、血管を縛って止血する手術が行われました。

手術は1時間余りにおよびましたが無事成功し、男性は翌日には退院でき、その後の経過も順調だということです。

男性は「とても怖かったです。救急病院がなければ死んでいたかもしれず、本当に感謝の気持ちでいっぱいです」と話しています。

病院の事業責任者の櫻井裕基 医師は「去年には大阪で同じような合併症が起きて亡くなった人もいて、もう命を落とす人を出してはならないと感じ搬送を受け入れた。今回はクリニックの医師から施術内容を詳しく聞けたので迅速に処置できたが、重篤なケースでも施術内容が分からず、処置が遅れてしまうケースが出てきている。救急医療を担う病院と美容クリニックとの連携は全国で広げていくべきだ」と話しています。

国も対応強化の方針

美容医療で相次ぐ合併症や後遺症について、国も対応を強化する方針です。

厚生労働省は去年8月、美容医療の合併症や後遺症の実態調査を行い、美容医療を提供する417の医療機関と、美容医療でトラブルを経験した600人から回答を得ました。

それによりますと、まず医療機関に健康被害などのトラブルが起きた時の対応を聞いたところ、「マニュアルや研修を用意していない」と答えたところが全体の33.8%に上りました。

また、アフターフォローを行う際に、対応できない施術の修正や後遺症などが発生した場合、連携している医療機関があるか尋ねたところ、35.7%が「ない」と回答しました。

一方、トラブルを経験した患者のうち18.7%の人は、「施術を受けた後、早期に再施術や治療が必要な状況に陥った」と回答しています。

具体的な症状を複数回答で聞いたところ
▽「熱傷」が25%で最も多く
次いで
▽「重度の形態異常」が23.2%
▽「皮膚のえ死・潰瘍」が22.3%となったほか
▽「消化器障害」が3.6%
▽「骨折」や「出血多量」が2.7%などとなっています。

厚生労働省の検討会は去年、報告書をまとめ、合併症や後遺症が起きた時に、クリニックが対応できない、あるいは、対応を拒絶したり、ほかの病院の紹介も行わないといった事例が見られると指摘しました。

検討会は患者が急変した時の体制や仕組みが十分でないとして、美容クリニックなどに対応を強化するよう求めています。

具体的には、合併症などの問題が起きた時、患者が相談できる連絡先を毎年、都道府県などに報告し、行政側がそのリストを公表することも検討すべきだとしています。

また、緊急手術を担ってもらう病院と、事前に合意を交わしておくなどの連携を進め、関係学会にはその具体的な対応方法をまとめたガイドラインを策定するよう求めています。

国は今後、報告書の内容を反映した医療法の改正を目指すことにしています。

(NHK NEWS WEBより転載 2025年6月15日 6時59分)